逆さメガネで世界を見ると…

逆さメガネで世界を見ると…

メガネの金剛、福祉機器担当の山内です。

今回、福祉機器のお話は最後に少しさせていただきます。

 

さて、今回、言いたいことは・・・

 

「私たちは、みんな世の中を逆さまに見ている」

「人間ってひねくれているよね」というような思想の話ではなく、養老孟子の話でもありません。

私たちの目には世界が逆さまに写っているのです。

人間の目の構造を調べると、網膜と呼ばれる像を映す場所には

角膜や水晶体というレンズを通して外界のものが逆さまに映っています。

これは間違いのない事実です。

つまりは、目の中で逆さまに写っているものを逆転させて知覚しているということ。

 

何で、急にこんなことを言い出したかというと、この本の影響です。

■逆さメガネの心理学~自分の視覚や知覚が信じられなくなる不思議実験室~

太城 敬良先生著

 

非常に高性能な人間の目ですが、

なぜ逆さまに像を映し(本の中では倒立像と表現)

それをまた本来の状態(本の中では正立像と表現)に戻す

という、ある意味面倒な仕組みに進化したのか。

また、そのように進化する必要があったのか。

また、私たちの目はどれだけ客観的にものごとを見ることができているのか。

それらのことについて、様々な実験を通してアプローチしています。

 

その実験内容の一例ですが

・上下左右逆さまになるメガネをかけて生活したら

・左右だけを逆さまにするメガネをかけて生活したら

・上下だけを逆さまにするメガネをかけて生活したら

という具合。

 

さて、実験結果はいずれの場合も紆余曲折を経ますが、

「外界を正立像として認識できるようになる」

という驚くべき人間の適応性を表す結果となりました。

この結果は、つまりは

「正立像ものを見るために、網膜像が倒立しているのは必要条件ではなかった」

ということを表しています。

 

面白いのはその過程で、身体感覚が曖昧になってしまうということ。

例えば、

・空からぶら下がっている感覚になる

・片手を握ると両手を握っているように感じる

・見えているものに現実感がなくなる

などなど。

視覚の逆転は身体感覚にも、驚くほど大きく影響を与えるようです。

本来はあり得ない感覚すら感じてしまう。自分の感覚って思いのほか信用できない。

逆に言うと、身体を動かすことで視覚の修正もなされていく。

なんと最後には逆さメガネでバイクの運転すらできるようになったとのこと。

ここから言えることは

「見るということは、視覚だけでは成り立たない」

ということ。

人間の持つ他の感覚が連動して見るということが成り立っているということです。

 

このことについては興味深い事例が書かれています。

先天的に目が見えず(先天性白内障など)、50歳で開眼手術を受けた男性の話です。

結婚式前に手術を受け視力を取り戻します。そして、初めて新婦の顔を見ると・・・

しかし、彼は新婦を見ることができなかった。

目の前に見えるのは「光と色の混ざったわけのわからない理解不能なものだった」というのだ。

新婦が声を発して、その存在を知ると、ようやく彼は目の前にあるものが新婦の顔だと気が付いた。

(本書より抜粋)

人間は、見て、触って、聞いて、感覚を駆使することで認識できるようになるのですね。

見えることは当たり前ではないと。

 

またもう一つ、逆さメガネと過去も含めたもろもろの研究から考えうることとして

「私たちは、思いのほか主観的にものごとを見ている」

ということが書かれています。

どういうことかというと、最初に人間の目は非常に高性能という話をしました。

例えば

・見たい部分を際立たせるために、周辺の感度を抑える側方抑制。

・歩いたり顔を動かすと目は揺れているはずなのに、それを感じさせないブレ防止機能。

・右目と左目で映っている像はちがうはずなのに、一つのものとして認識できる補正機能。

などなど

その辺りのカメラなど問題にならないぐらいに、人の目は高性能にできています。

つまりは、本来の見え方を脳で修正していています。あるがままには見ていないんですね。

 

もろもろの実験からは、私たちがいかに主観的にものを見ているのかが分かります。

筆者の言葉を借りると

私は、一人一人が見る世界はまったく異なっており、他人を理解することはきわめて難しく、

また、慎重にすべきだということを示唆する事実と受け取っている。

自分のものさしを人にあてはめ、自分流に他人をおしはかろうとするのは、

いかに傲慢で、かつ無謀かということだ。

(本書より抜粋)

 

私も「自分の見方、考え方は正しい!」と固執してしまうことがあります。

色んな見方があって当たり前、時には自分の常識も再確認していかないとと思いました。

また、「見たいものだけみている」という事実に気付き、

視野を広げて物事を見ていくようにしたいと思います。

 

色々な示唆に富み、びっくり知識などもある面白い本でした。

皆様も機会があればご一読を・・・

 

 

さて、ここでお知らせ、

■オーカムマイアイ2取扱い開始!

最後に視覚障害者用の生活支援機器の紹介です。

ついに、正式取扱店となりました。

デモ機を準備中。体験ご希望の方はご一報ください。

 

☎072-234-2856 福祉機器担当、山内まで

お待ちしております。